堀直子 エッセイ「いつも、そばにいるよ」
31 メリーちゃん
メリーちゃんは、私がこの町へ引っ越してからときどき出会う犬だ。
中島川の冷たい流れの上にかけられた大きな橋のはじっこを、飼い主につれられて、行ったり来たり…
やわらかな茶色い毛並み、やせこけた背中とおなかは、すいぶんと年をとっているようだ。
だけど、真っ黒な瞳は愛らしく、ちょこんと垂れた耳はいつも風に吹かれている。
もわもわのあったかそうな赤い服をきて、まったくのマイペース、ゆっくりゆっくり歩いている。
ライオンを思い出して、ライオンの歩みにそっくりなのを思い出して、
いつのまにか飼い主さんと声をかけあうようになった。
「すこし痴呆もはいっているし、きのうはおなかをこわしたし、どうなることやら…」
飼い主さんはいつもそういう。
やさしくメリーちゃんの頭をなでながら。
私はそんなメリーちゃんに
「今年もがんばれ!今年もよろしく!」
ぴょこんとおじぎをして、握手をして、橋の上からいっしょに川の流れを見つめた。
おとといだっけ?
メリーちゃんは私の膝に頭をのっけて、日溜まりのような命を伝えてくれる。
15歳!メリーちゃん、がんばれ!
★その32★
★「いつも、そばにいるよ」表紙★