堀直子 エッセイ「いつも、そばにいるよ」

         25 重たい話

           ひさしぶりに本棚の整理をしたら、
           きらいな作家からもらった本が目についたので、
           そいつを古本屋に売るべく、紙ぶくろにどさどさいれた。
           私は同業者のほとんどがきらいである。
           ほんとうに作家っていやなやつが多いんだ。
           自分ももちろん含めてだが、
           私の本だって、それもサインいりのが、
           古本屋で、2、3百円で売られているから、
           どこかの誰かが「こんなの、いらない」って持っていったに違いない。

           古本屋のおねえさんは、紙ぶくろをさかさまにすると、本を取り出し、
           めがねを吊り上げて、1冊1冊ぱらぱらとめくっていった。
           なにやら鉛筆で、値段を書き込んでいく。
           本を得ったお金で、お昼ごはんぐらい食べられればいいかなと思いつつ、
           私はおねえさんがいった言葉に仰天した。

           「あのぉ、全部で、310円ですか?」
           私は重たい思いをして、この本たちをよいしょと運んできたのだ。

           「ほんとうに310円なの?」
           おねえさんは、こっくりとうなずいた。
           そして、どうする?お金いるの?いらないの?
           みたいな表情をした。
           「うーん」と私は唸った。瞬間私はいった。
           「売らない。持って帰ります」

           私は再び本たちを紙ぶくろにつめこみながら、
           よいしょっと紙ぶくろを手にさげた。
           行きのときよりも、帰りはさらに重くなった感じだする。

           あーまたこの本たちが、本棚に並ぶのか。私はため息ついた。
           きらいな同業者の本ほど、神経いらだつしな。
           でも、本には責任はないんだ。

           私はいつか図書館が長崎の町にできたら、
           この子たち、まとめてみんな、
           うちの本棚の奥に眠っているのも全部、
           あげちゃおっと思いつつ、しびれる腕をなだめた。


          ★その26★


          ★「いつも、そばにいるよ」表紙★