堀直子 エッセイ「いつも、そばにいるよ」

         15 たそがれの妖精

           ライオンと散歩に出かけたら、道ばたにツバメの子どもが落ちていた。
           たそがれの空を切りとったような淡いブルーをして、ちょこんと落ちていた。
           車が走るところを「あぶないじゃない」私は、そう思っててのひらにすくいとった。
           ツバメはなんだか元気がない。
           きれいにおりたたまれた翼は、まだ短くて、
           きらっきらっと金や青やむらさきに、まるで宝石の粉をまとったように輝いて、
           私のイメージのなかにある漆黒の黒は、どこにもみあたらない。

           「ねえ、おなかはすいてないの?」
           聞いたけど、とろんと愛らしいつぶらな目で、ツバメは私を見つめるだけだ。
           「この子の親はいませんか?」
           さがしたけど、気配すらない。

           とにかく散歩はあとまわしにして、ライオン、ごめんね、うちに帰ろう。
           そう思って、ライオンのリードを引いたら、
           ライオンは素直にまわれ右をして、もときた道を家まであるきはじめた。

           かえりぎわ、この子のえさは、どうしよう?
           ツバメは保護鳥だから、獣医さんにもっていったほうがいいのだろうか?
           いろいろなことを考えた。
           はたして、飛べるようになるか?わたり鳥として、やっていけるかな?

           途中、私の手の中で、ツバメがはねた。
           小さな真っ黒い足で、私のてのひらをつっつくようにして、はげしくもがいた。
           私はツバメが逃げてしまわないかと、てのひらをまるめた。

           足を早め、ライオンをせかすようにして、家についた。
           すぼめていたてのひらをひらいたとき、私ははっとした。
           ツバメが動かない。翼も首も足も人形のようにくっついたまま、動かない。

           そうか。さっき、もがいたのは、最後の力をふりしぼったせいだ。
           死ぬまえに、この子は、空へ飛び立ちたかったんだ。
           それとも、私のてのひらを、空とまちがえて、飛ぶ夢でも見ていたのだろうか?

           ごめんね、ツバメ。
           私はタオルでツバメの子をつつむと、「ライオン、もう一度散歩にいこう!」そういった。



          ★その16★


          ★「いつも、そばにいるよ」表紙★