堀直子 エッセイ「いつも、そばにいるよ」
[ライオン日記(6)]
13 空とひまわり
よそから引っ越ししてきた人が、よくいう。
長崎の人間て、親切で人なつっこい、と。
だけど、いま私は、この親切で人なつっこい長崎人の性格に、心が傷ついている。
ライオンが元気なときは、公園にいくのが楽しかった。
そこで会う犬を連れた人々といっしょに、あれこれ話をしたり、犬の情報を交換しあったり。
それが、いまや15歳となったライオンを見る人々の、
へんなおせっかいが、私の気持ちをさかなでしていく。
そうよね、彼らは長崎人特有の親切心でいっているだけなんだよね。
「毛の色の悪うなったけんね、ライオンちゃん」
「疲れてとると?ライオンちゃん」
「目の色が、おかしかね」
「右足、変ばい、ライオンちゃん」
「しばらく見らんやったけん、
死んどるかとおもっとったばってん、生きとっとね!ライオンちゃん」
(このことばには、さすがにこたえ、私は、そういった本人にあやまってもらった)
私は、親切でおせっかいなみなさんに出会うたび、
「ええ、ライオンは、まだ15歳になったばかりですけど。
ええ、ほんのちょっとバテ気味なだけなんですよ」
できるだけ笑顔を作って、
「ええ、あなただって、そのうち、年とるでしょ?おたがいさま」
そういってやる。
私のことばに、憤慨なみなさんは、むっとした表情で角をまがるけど、
私の心は曲がれない。
いま私は無口になっている。
背中に「老犬です。ゆっくり歩きます」と書いた紙を張って、散歩にいくのだ。
私の目に写るのはライオンと、夏の空、黄色いひまわりだけ。
★その14★
★「いつも、そばにいるよ」表紙★