堀直子 エッセイ「いつも、そばにいるよ」

         5 ねずみをくわえたライオン

           散歩の途中、ほわっと積もった雪のくさむらにしのびこんだライオンが、
           うれしそうにもどってきた。見るとなにかをくわえている。
           彼の口もとをよくよくのぞきこんだら、ピンク色の長細いしっぽが垂れているじゃないか!
           「な、なに!ライオン!放せ!放しなさい!」
           私の声に、びっくりしたように、
           ライオンがぽいっと道ばたにおとしたものは、死んだねずみだった。
           硬直したねずみの身体は、雪にぬれ、小さな前足が寒そうにちぢこまっている。

           「もう、おまえは、こんなものを、拾ってきて!」
           私はライオンとは、しばらくキスをしないぜと心のなかで誓って、
           散歩をちょっと短く切り上げて、帰ってきた。

           次ぎの日、あのくさむらを通りかかったら、
           ねずみはきのうと同じ場所に、前足をちぢめたまま、ころがっている。
           誰もそこにねずみが死んでいるのなんて、
           気がつかないみたい、足早に行き過ぎていく。

           その次ぎの日、ねずみが消えていればいいなと思ったけど、
           ねずみはおもちゃのように、やっぱりころんと置かれたまま。

           私はライオンの散歩を中断して、「しょうがないなあ〜」と
           ため息をつきつつ、ねずみに土をかぶせた。
           冷たい前足はこれで、寒くないよね?
           ねずみの身体が、茶色い土にかくれてしまうまで、やわらかい土のふとんをはらはらと。

           夕方、宅配便が来ていた。あけてみたら、キューイフルーツだ。
           日本産の無農薬のやつだから、外国のとは違っていて、すごく細長い。
           おまけに頭のつるが、くるんと長い。
           しっぽをはやしたキューイフルーツは、
           なんだかねずみそっくりだなっと思いながら、
           私はみずみずしいひとつをつまんで、かじった。


          ★その6★


          ★「いつも、そばにいるよ」表紙★