堀直子 エッセイ「いつも、そばにいるよ」

         3 贈り物 パート1

           私の家は坂の途中にあって、となりは、アパートだ。
           となりといっても、私の家より、一段と高いところにある。
           もう片方のおとなりさんは、むろん、私の家より一段低いところ。
           なんか、遠くから見たら、家たちの段々畑がならんでいるみたいだ。

           上のアパートに住む、ワルガキどもは、しょっちゅう、スナック菓子を食べている。
           ぽりぽりぱくぱく、たべかすは、そこらへんに散らかし放題。
           私がいちばん頭にくるのは、食べ終わったお菓子の袋を、家の庭に落とすことだ。
           うちの庭はごみ箱じゃないぞ!って、いくら叫んでも、お菓子の袋は、となりの空からふってくる。

           そのくせ、ワルガキどもは、ボール遊びのボールを私の庭に落とすと
           「すいませーん!とってくださーい!」って、何度も何度も声をからす。
           私が庭に出て、ボールをひろって彼らにかえしてあげるまで、かん高い声はやまない。

           ある日、ワルガキどもがやってきた。
           「す、い、ま、せーん!ボール、とってくださーい!」私は返事をしなかった。
           庭にもでてやらなかった。
           すると、こんどは、女の人の声で「すいません!ちょっと、せんたくものが…」
           怪訝に思って、窓からこっそりのぞくと、女の人は、ワルガキどもの母親だ。
           彼女もいっしょになってわめいている。
           「あの、せんたくものが落ちちゃって…とってくださーい」
           見ると、植え込みところに、よれよれのくつしたと、ピンクのバスタオルがひっかかっている。

           30分ほど、彼らのコールは響き渡った。私は、おもむろに玄関の戸をあけた。
           「あのね、うるさいの。仕事中!」「あらっ、すいません」
           茶髪の母親はぺろっと舌を出した。

           私は庭にころがったボールとせんたくものをつまみあげると、彼らに返した。
           「あ、どーも」そういって帰っていくワルガキ親子を、私は呼び止めた。
           「あのね、まだ、落とし物あるでしょ?」
           ワルガキ親子は、「なんか、あった?ほかに、なんか、落とした?」
           「ううん、なか」しきりに首をかしげている。

           「あるでしょ?ほらっ」そういって、私はゴミ用のポリバケツのなかにためておいた、
           お菓子の袋を、ワルガキ親子の前にひとつずつ引っ張りだした。
           「このポテトチップスは、おとといの落とし物。このチョコレートの包み紙は、きのうね。
           こっちのクッキーの箱は、きょう。つまり、落としたてのほやほや。
           あ、まだあるよ。ジュースのかんも。まとめて、返すから、ちゃんと、お家に持っていってね」

           ワルガキどもの母親は、あっけにとられたような顔をした。
           しぶしぶ私からの贈り物を受け取ると「帰るよ!」
           ワルガキどもの頭をこつんこつんとたたいて、アパートにもどった。

           私は彼らの背中にむかって、なんべんもつぶやいた。ざまーみろ!


          ★その4★


          ★「いつも、そばにいるよ」表紙★