「2002長崎ランタンフェスティバル」開催期間中のことです。
ランタンがいくつあるのか疑問に思い数をかぞえました。
長崎のイベントのひとつ、冬の風物詩「長崎ランタンフェスティバル」があります。
開催は1月1日から1月15日まで。といっても、旧暦での催しのため、その期間は毎年かわります。
イベントが本格的に始まったのは、平成6(1994)年でした。
それまでは、在留華僑の人たちが、中国の春節といわれる正月(旧正月)を祝い、
独自に新地の中華街を中心に「春節祭」を催してきました。
そのお祭りを長崎市が参画、規模を拡大して15日の元宵(げんしょう)節までを
「長崎ランタンフェスティバル」としたのです。
まだ、札幌の雪まつりほどには定着していません。
全国ニュースでも、ぽつぽつです。それでも、集客数は毎年のようにうなぎ上り。
せまい市内中心部はいたるところ、県内外からの観客であふれ完全に飽和状態。
新地中華街の南にある、メイン会場湊公園の端にはステージが組まれます。
イベントがひしめく土曜、日曜などは立錐の余地もありません。
催しは、街をねり歩く「皇帝パレード」や「媽姐(まそ)行列」をはじめ、
「龍(じゃ)踊り」や「中国獅子舞」、「中国雑技」など、さまざまです。
そんな「長崎ランタンフェスティバル」の、最大の呼び物であるランタン。
夜ともなると、長崎市内中心部が幻想的な世界に包まれます。
ランタンの光が、人々の心を温かく和ませてくれるのです。
では、開催期間中に、いったいいくつのランタンが飾られ、街中にきらめくのでしょうか。
いまから13年前、平成14年の開催のことです。
当時、実行委員会が提示していたランタンの数は、1万2千個。
その前後、1、2年は増えも減りもしない、1万2千個を宣伝していました。
はたして本当でしょうか。
ふと疑問にもち、数をかぞえてみたくなりました。
2月12日から26日までの開催期間中、数えました。
内容は、ちょっぴり古いデータです。
名称や装飾範囲などは、すべて調査当時のものとなります。
地元の人にしか分からない名称が、たくさんあります。
その点、どうかお許しください。
ランタンの数をかぞえるにあたって、2つの取り決めを設けました。
まず第1に、数える範囲について。
範囲は、実行委員会発行のガイドマップに示している、ランタン装飾エリアのみとしました。
ランタンは販売もしています。公共施設や商業施設をはじめ、個人商店や個人宅も掲げてもいます。
いたるところに掲げており、皆目、見当がつきません。あてどないのです。
ただ、開催期間中、メインストリートともなり、
「皇帝パレード」や「媽姐(まそ)行列」の通り道となる西浜通り。
その途中、ダイエー銅座店が独自に店前に掲げているランタンは含めることにしました。
調査地区は22か所です。
浜市アーケード
ベルナード観光通り(アーケード)
鐵橋〜築町
S東美(大型商業施設)横
浜市アーケード〜油屋町
アルコア中通り
アルコア中通り〜興福寺
興福寺境内
春雨通り(旧きのくにや〜思案橋・電車通り)
思案橋〜福砂屋
思案橋グルメ通り
鍛冶市通り
崇福寺通り(銀嶺〜崇福寺)
崇福寺境内
観光通電停〜新地
西浜通り
新地中華街
湊公園メイン会場
湊公園〜館内町(旧唐人屋敷)
オランダ通り
出島ワーフ(ベイサイドの複合商業施設)
JR長崎駅構内
実行委員会発行のガイドマップを見ると、長崎への窓口となる交通の要衝、
長崎空港とJR博多駅にも、ランタンを掲げているとしています。
でも、省きました。
あくまでも長崎の市内中心部を彩る、ランタンの数に限りました。
取り決めの第2。ランタンそのものについて。
赤、黄、桃色の提灯型のランタンは、簡単に数えることができます。
でも、大型のランタンオブジェなどは、いくつもの電球でひとつの形となっており、数えるのに悩みます。
そこで1個のランタンオブジェを、1個のランタンとして数えることにしました。
約5万個のペニシリン薬瓶で創作されている「孔雀」や、
磁器と電球でその豪華さを誇る「龍と鳳」なども、それぞれ1個となります。
また、ランタンオブジェのなかには、2個以上のカタマリで、ひとつの世界を表わすこともあります。
人物と樹木、人物と動物、人物と雲などは、それぞれ別々に1個、1個と数えました。
さらに、市民参加の催し「手作りランタンコンテスト」の出展作品も含めました。
と、ここで、ひとつの問題が生まれました。
今回、旧居留地に位置する、大浦町のオランダ通りも、ランタン装飾エリアになりました。
ただ、電球をおおうランタンがついていません。
まったくもって、ランタンと呼べる代物ではないのです。
小さな生の電球そのものが、電線でつながっているだけ。
クリスマスのとき、もみの木につける電飾のような感じです。
と悩みながらも、電球1個を1個のランタンとして数えました。
ふつうのランタンよりも、ひとつひとつの電球の間隔がせまく、かなりの数にのぼりました。
いちどに100以上かぞえるとなると、頭のなかが混乱します。
定点観測をしたときは、「正」の字をいくつもメモに採ったこともありました。
でも、荷物や傘を持ちながらとなると、かなり面倒です。
そこで、交通量調査のときなどに使われる「数取器」なるものを購入しました。
「999」まで数えられます。税抜きで1550円もしました。
ランタンは、人の視線より少し高いところに飾られます。
人通りの多いなかで正面を見ず、上ばかりを見て歩くことになります。
人から「何をやっているんだ、こいつは」と白い目でにらまれます。
何回も人とぶつかります。
数取器は、いちおう手の平に隠しています。
それでもアーケードなどでは、カウントするたびにカチカチ……と、大きな音が反響しました。
数えるためには仕方がないことです。
一般的に、通りに掲げている提灯型のランタンは、赤、黄、桃色の3種類です。
この3種類は、ほとんどの場所で、赤、桃、赤、黄。赤、桃、赤、黄……の順番に並んでいます。
規則的にパターンが決まっており、数えやすくありました。
でも、ごくまれに赤、赤、桃、赤、黄……と並んでいたりするのです。
リズムが狂って、初めから数え直すことが度々ありました。
アーケード街など、赤、桃、赤、黄のランタンの途中には、不規則に2種類の旗がさがっています。
「春節祭」や「喜」の文字がデザインされた、逆三角の旗ならば小さく、まだいいのです。
でも、「熱烈歓迎」や「NAGASAKI LANTERN FESTIVAL」と
書かれた縦長の旗になると、その裏が見えません。
ほとんど真下まで行かないと、裏側に隠れているランタンが確認できないのです。
縦長の旗は、数をかぞえるのに邪魔となります。
道に掲げるランタンは、路肩に沿ってつなげた電線からつるしています。
いっぺんに通りの両方を数えることはできません。1本の通りを往復することになります。
会場や敷地に、無造作にランタンオブジェが置かれていたり、
ランタンがひしめき合って、つるされている個所での数は要注意です。
シンメトリーに飾られていると思ったら、じつは違っていたりもします。
たとえばベイサイドの出島ワーフは、ひとつの建物の周囲をランタンがかこっています。
一辺の途中でなく、必ず角から数えます。
ただ、角のランタンをはじめの数に入れたか入れなかったか、
1周を終えるころには忘れてしまいます。
また、数に夢中になると、どの角から数えたのか忘れてしまい、
2周目に入ることもありました。何事も初めが肝心です。
ひさしぶりに、興福寺と崇福寺に足を運びました。
ふたつの寺は福済寺、聖福寺とあわせて、唐四福寺と呼ばれています。
中国とのつながりが深い、長崎ならではの由緒あるお寺です。
こちらは、ほかのランタンとは違う、独自のランタンを飾っています。
「長崎ランタンフェスティバル」として開催される以前から、
古くから伝わる「春節祭」や「中国盆」の催しなどのときに、飾っていたものといいます。
ふだん入るのには観覧料が必要となります。でもイベント期間中は無料で入ることができます。
1人で数えると、ほんとうに正確なのかどうか、誰にも分かりません。
違っていて当然ともいえます。
おおよそのところ許容範囲として、前後50個以上の誤差は、確実に生じているはずです。
いく人かで数えてもいいのです。でも、たぶん数えた人の分だけ、違う数になるでしょう。
訳が分からなくなります。
だからこそ、あえて1人で数えることにしました。
市のイベント担当部署にいる知人に、かぞえた数を伝えました。
「おお。近いとこ、いってるじゃん」
かぞえた数と市が把握しているランタンの数が、おおまかに近かったようです。
そのひとことで、達成感は倍増しました。
また、ためしに数をブログなどで公にしてよいか聞いてみました。
「それだけは、やめてくれ」
もしかして、主催者としては公にして欲しくない何かがあるのでしょうか。
期間中、延べ110時間余りを費やし、数えたランタンの総合計は
……まあ、いくつでもいいでしょう。
その数が多いのか少ないのか。
公表している1万2千個と比較しようとは思いません。
多いから少ないから、だからどうした、ということではないのです。
それは、どうでもよいこと。
単純に、ランタンの数をかぞえてみたかった。
それだけ。
あくまでも、その行為を楽しみたかっただけなのです。
ただ、ひとつ。
現実問題として1万2千個という数を、暗黙に多く見積もっているのは、明らかでしょう。
ランタンの数をかぞえてから、早いもので13年が過ぎました。
ちなみに、いま飾られているランタンの数は、主催者発表で1万5千個。
13年間で3千個ふえたことになります。1年毎に230余個増えている計算です。
ほんとうでしょうか。
できることなら、また長崎で数えてみたいです。
初出は数え終わった直後、自作のA5判にまとめ、平成17(2005)年9月頃、「長崎年表」の「長崎補色」にアップしました。
山猫工房出版局発行のナガサキコラムカフェ「AGASA第5号」(2008年1月1日)に掲載し
最終的にミネルヴァの会発行「季刊ミネルヴァ 2014年冬号」(2014年1月)掲載分をもとにしてます。